京都造形芸術大学舞台芸術研究センターは、今回「We dance 京都 2012」に共催として参加させていただきました。私たちのセンターは、2005年、舞踊家の山田せつ子さんを中心にITI(国際演劇協会)日本センターの「第2回アジアダンス会議」を共催させていただいたことがあります。その時痛感したのは、クリエーションにおける「場」の重要性についてでした。異なるバックグラウンドを持つアーティストが出会い、徹底的にダンスについて意見を戦わせ、刺激しあう「場」の存在が、普段は孤独に現場に向きあっている作り手一人一人をどれほど勇気づけるものなのか。一昨年、岡崎さんから「We dance」の京都開催について打診を受けたとき、即座にその趣旨に共鳴できたのは、明らかにそうした体験があったからでした。結果的に共催者としてはわずかなことしかできませんでしたが、プログラムディレクターのきたまりさんの獅子奮迅の活躍のおかげで素晴らしい二日間になったことは大きな喜びでした。
誰もが口にする通り、過去20年余に亘って独自の展開を遂げてきたコンテンポラリーダンスは「危機の時代」を迎えています。大学で毎年入試をやっていると日々実感しますが、いま10代の多くの若い世代にとって最も魅力的な「ダンス」はヒップホップでしょう(どこまで長続きするかは疑問ですが、2012年度から中学校ではダンスが必修化され、指導要領には「ロックやヒップホップ」などという文言が踊っているようです)。他方、ピナ・バウシュもマース・カニングハムも大野一雄もこの世を去った今、20世紀のダンス史の燦然たる輝きはゆっくり「歴史化」への道を辿りつつあると言わなければなりません。間違いなく日本のコンテンポラリーダンスはこうした偉大な作家たちに深く同時代的な刺激を受けて発展してきたのであって、こうしたプレゼンスのないところで作品を作るという状況自体が新しい段階なのだと言えるでしょう。コンテンポラリーダンスとは、個人の小さな内的小宇宙をナルシスティックに受け入れあう場所では決してなかった。それは広い意味での「歴史」や「社会」と厳しく対峙し、作り手と観客双方の身体感覚や感性が、劇場空間の只中で変革されるような生々しく残酷な「場」にほかならなかったのです。
今回のプログラムのなかでは、「演劇とダンス/身体性の交換」における三つの作品が明瞭な存在感を際立たせていました。筒井潤さん、相模友士郎さん、多田淳之介さんが京都の初顔合わせのダンサーと組んで作った作品には、「ダンスとは何か」「いまダンスは何が魅力的なのか」を異分野の立場から立論しねばり強く練り上げた痕跡が色濃く感じられました。私は、コンテンポラリーダンスをやっていこうと決意している人たちがどのようにこうした作品を受けとめたのか気になります。今回唯一心残りだったのが、その点突っ込んで議論する時間が公式には取れなかったことです。その解答は、参加者の今後の作品そのものに刻印されていることを期待して、私自身、これからもダンスの劇場に足を運びたいと思います。
森山直人[京都造形芸術大学舞台芸術研究センター主任研究員、演劇批評家]
2012年2月27日月曜日
01. 岡崎松恵:「ご挨拶にかえて」
京都開催のアイデアは、京都出身者や京都に馴染みのある関東アーティストが多数参加した2010年2月「We dance 2010」の打上げ会場でのこと。冗談みたいな飲みネタだったが、一昨年秋に第3回「We dance」の3人のディレクター(きたまり・捩子ぴじん・篠田千明)が京都で集まってSocial Kitchenでトークセッションを開催したことを機に、現実的に考えるようになった。日本のコンテンポラリーダンスに京都勢のアーティストが果たしてきた役割は大きく、彼らを生み出した京都というダンスの磁場で新たな展開が生まれるのではと期待したからだ。この間右往左往しながらも、「We dance 京都2012」を大変な盛り上がりのうちに終えることができた。ご来場の皆さん、ご支援・ご協力をいただいた関係者各位、そして、プログラムディレクターのきたまりさん始め、ご参加いただいたアーティスト・スタッフの皆さん、誠にありがとうございました。
ダンス・コミュニティ・フォーラム「We dance」は、コンテンポラリーダンスの状況に対する危機感から2009年に横浜で開始した。ダンスを取り巻く環境や制度が整備される中で、シーンを突き動かしてきたアーティストの声が聞こえなくなってきたことから、今一度皆で集まって、「いま何を問題として作品を創っているのか、未来に何ができるのか」を語り合う共通の基盤を見いだそう、というのが始まり。毎年100名を越えるアーティストが集まり、その時々で会場も内容も異なるが、基本的なスタンスとしては、アイデアをともに探求する場、疑問を投げ合う場、境界をなくす場をつくろうとしてきた。
今回のきたまりディレクションによる「We dance 京都2012」も、同様のメッセージを地元ダンサーに投げかけたものと思っている。新しい組み合わせによるダンス作品創作、3人の演出家と11人の関西のダンサーとの共同作業による作品創作、創作の現場で身体と身体をぶつけ合うことで、議論に結びつく、新しい身体表現についてのアプローチを促したい、という強い願いがあったのだろう。きっかけはきたまりの呼びかけではあったが、参加メンバーひとりひとりが自分自身の問題として捉えて創作に取り組んでくれたからこそ充実したプログラムになった。私にとってダンサーはほぼ初見だったが、とりわけ「演劇とダンス/身体性の交換」には目を開かせるものが多々あり、3人の演出家による演劇の創造力と関西のダンサーの豊かな身体言語が融合したすぐれた舞台だったと思う。ただ、こうした体験を経て、ダンサーたちが自分たちの言葉を獲得する場として期待された初日とクロージングの「トークセッション」が十分に活用されなかったのは大変残念であった。この「FORUM」のページは、継続的な議論のきっかけとなるよう立ち上げたので、今後のダンサーの発言にも期待したい。
「We dance」は、ダンス当事者の場づくりの提案にすぎない。人々の能動性や関わりの創造性で、場の機能はどのようにでも変わっていく。「We dance 京都」で生まれた小さな種を、今後京都/関西のアーティストたちが主導し、育てていってくれることを心より願っている。そして、また、さまざまな都市で個人の主体を越えて新しい道を切り開こうとするアーティストたちにより“We dance”なるものが生まれれば、日本のコンテンポラリーダンスはますます刺激的になっていくと思うのだ。次回は本拠地横浜にて、今回の京都開催で得たアイデアを生かしたいと思う。また、会いましょう。
岡崎松恵[NPO法人Offsite Dance Project 代表・プロデューサー]
ダンス・コミュニティ・フォーラム「We dance」は、コンテンポラリーダンスの状況に対する危機感から2009年に横浜で開始した。ダンスを取り巻く環境や制度が整備される中で、シーンを突き動かしてきたアーティストの声が聞こえなくなってきたことから、今一度皆で集まって、「いま何を問題として作品を創っているのか、未来に何ができるのか」を語り合う共通の基盤を見いだそう、というのが始まり。毎年100名を越えるアーティストが集まり、その時々で会場も内容も異なるが、基本的なスタンスとしては、アイデアをともに探求する場、疑問を投げ合う場、境界をなくす場をつくろうとしてきた。
今回のきたまりディレクションによる「We dance 京都2012」も、同様のメッセージを地元ダンサーに投げかけたものと思っている。新しい組み合わせによるダンス作品創作、3人の演出家と11人の関西のダンサーとの共同作業による作品創作、創作の現場で身体と身体をぶつけ合うことで、議論に結びつく、新しい身体表現についてのアプローチを促したい、という強い願いがあったのだろう。きっかけはきたまりの呼びかけではあったが、参加メンバーひとりひとりが自分自身の問題として捉えて創作に取り組んでくれたからこそ充実したプログラムになった。私にとってダンサーはほぼ初見だったが、とりわけ「演劇とダンス/身体性の交換」には目を開かせるものが多々あり、3人の演出家による演劇の創造力と関西のダンサーの豊かな身体言語が融合したすぐれた舞台だったと思う。ただ、こうした体験を経て、ダンサーたちが自分たちの言葉を獲得する場として期待された初日とクロージングの「トークセッション」が十分に活用されなかったのは大変残念であった。この「FORUM」のページは、継続的な議論のきっかけとなるよう立ち上げたので、今後のダンサーの発言にも期待したい。
「We dance」は、ダンス当事者の場づくりの提案にすぎない。人々の能動性や関わりの創造性で、場の機能はどのようにでも変わっていく。「We dance 京都」で生まれた小さな種を、今後京都/関西のアーティストたちが主導し、育てていってくれることを心より願っている。そして、また、さまざまな都市で個人の主体を越えて新しい道を切り開こうとするアーティストたちにより“We dance”なるものが生まれれば、日本のコンテンポラリーダンスはますます刺激的になっていくと思うのだ。次回は本拠地横浜にて、今回の京都開催で得たアイデアを生かしたいと思う。また、会いましょう。
岡崎松恵[NPO法人Offsite Dance Project 代表・プロデューサー]
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